誇張する言い方をするならば、渋谷を歩く人々に石を投げれば DJ に当たると揶揄されて久しい2018年。レコードを1枚1枚視聴して、ターンテーブルを触り続けてコントロール出来るようになるまで、日々修行をして3年と言われた時代から比べたら、テクノロジーの進化によって本当に誰でもいつでも DJを簡単に始められて、人前に立てる時代になった。USBスティックを CDJに刺せば 3台が同期して DJプレイ出来るようになるなんて、重たいレコードバックを持ち歩いていた20年以上昔の自分にこの話をしたら、ドラえもんのポケットから出てくる夢のような話。それくらい DJシーンとそのあり方はとてつも無い大きな世代間ギャップの上に成り立っていると最近実感する。
DJ で生きていく為には何が必要なんだろう? DJ という存在を誇示していくには、どうやって考えるべきなんだろう? 大きなクラブでプレイする DJ にとって大事な要素とは何だろう?
昨今の DJ達は DJを始めるという行為の敷居が低くなった分、ある意味逆に高いレベルで DJに対する考えや想いがあると感じている。自分は 17年前に 06Sを開始した当初、DJとして生きていく為にどうしたら良いか?なんて正直あんまり考えていなかった。もちろん DJを職業にし、生業にしようとおこがましい事は考えて無かった。でも、今は DJが仕事となって生きているし、当時から日本にドラムンベースのシーンを根付かせるために多くの人に自分の存在を認めてもらいたかったのは事実。時が過ぎると17年前の大事な記憶も薄っすらとしか残らなくなって来るけど、明確なのは、人前でパフォーマンスをして、沢山の人を踊らせて楽しみたいという、シンプルな情熱が大きかったのは確かだ。
結局、自分の想像を凌駕し継続する案件は、純粋かつ強い気持ちが根幹にあって、そんな自分が持っているシンプルでも純粋にやってみたいと熱望する強い気持ちを、応援してくれる日本屈指のクラブ Wombと優秀な友人達に恵まれたのは大きい。自分は本当に幸運で、ファミリーと呼ぶべき彼等無しでは、何1つ成し得なかったし、06S を17年間も続けるのは不可能だった。
06S は17周年を迎え、200回目を迎える。200回毎月 WOMBのメインフロアーの DJブースに立った経験を持つのは最長レジデントパーティーの DJである自分なのは周知の事実。あのブースで培った経験と知恵は現在の自分の大きな人生の核であって、200回の中で迎えた修羅場や、数々の最高の時間を乗り越えてきた人のみが眺められる景色が存在している。あのブースに初めて立ってから17年。もちろんその分だけ年齢も重ねたけど、昔のように勢いだけで乗り切ってきた自分よりも、最近はより冷静に物事を見つめ、機材をコントロールし、フロアーを掌握出来るようになった。最高級な爆音の中に身を置く自分を俯瞰で眺めているような感覚が宿っている。06Sでの17年も含め DJキャリア21年。それだけ同じことを続けていると、頭で考えるよりも、体が勝手に動いて自分を表現するようになった。多分この現象は、1つのことを極めた、いわゆる職人と呼ばれる人たちみんなに起こる、口では説明しにくい、その人の心と体に染み付いてしまった意識を超える感覚だと思う。
意識を失うという言葉があるけど、それは完全に自分を制御しきれない状態を示していて、通常人間は意識という自己コントロールを促す部分で生きているけど、最近考えるのは、意識を超える感覚がそこには存在していると実感している。頭で考えるよりも先に感覚が自分を動かすようになるのが、長年を費やして培われる職人技だと考える。
そして、意識をも超える感覚を身につけた人達が本物の DJであり、アーティストだ。何事も長年諦めづに行動を伴う思考を継続していれば、集中力を超える意識外の部分が最も大事だと自覚するのではないか。それと同時に自分の可能性や、力量、能力、才能、に気づく時は必ずくると思っている。
正直、自分でも納得できる究極の領域に達するまで、まだどれくらいの時間が必要なのかも分からないけど、もうそんなに遠い未来では無く悟りの境地にたどり着くのかも知れない。とにかく答えを見つけるには、長年1つの事を貫き表現しながら積み上げて継続する方法しかなくて、その感覚を維持しながら、一流の職人達はきっとそんな心境にたどりつきながら匠の技を磨いているに違いない。
自分はまだまだ夢の途中なのか、不治の病にかかったままなのかも分からない。音楽が持つ魅力と同時に魔力もあって、その不可思議な力に取り憑かれてしまっている人は、沢山存在していて自分もその1人。可能な限り持っている力はまだ試して見たいし、まだまだ探求して奥深くまで知りたい意欲がある。
そんな想いで迎える17周年記念と200回記念の 06S。後1週間後、来週土曜日5月5日にその大きな節目がやってくる。改めてこの200回という数字を見ると、毎月200回は素直に凄いなと思うけど、色々と困難な時期もあったし、もう継続は無理かな?と考える局面は山ほどあったのに、あっという間に過ぎ去ってしまった感覚が大きい。正直200回は自分が1番信じられないし、かなり感慨深い。更に今回のアニバーサリーは、2公演2都市という新しい試みで、06S前日、5月4日金曜日は、名古屋X HALLと06Sのコラボレーションパーティー。しかも、DJ AKi Streamを名古屋の X hallからストリーミングするので、これも新しい試み。X HALLのボス山崎さんは、およそ4年位のお付き合いで、名字が同じなのもあり、初めて会った時から親近感があって、彼は本当に名古屋にしっかりとしたシーンを根付かせようと、若手の育成に力を注いでいる人格者。彼の元で DJ活動を出来ている若者達は最高の指導者に恵まれていて幸せだ。名古屋は街のポテンシャルも高いのでこれからのシーン成熟を心から期待する。来週末は何かと忙しい週末になるけど、熱意を持ってよりドラムンベースという音楽をこの日本で根付かせたい人達の想いが、5月4日、5月5日に詰め込まれているので、名古屋の人も、もちろん東京のクラウドも気合十分で楽しみにしていて欲しいと思う。昨年のウルトラ以来の共演のYUUKi MCも帰国するし、何と言ってもドラムンベース界の覇者 Pendulumが再降臨ですから!! 後1週間 DJ AKiも自分をしっかり見つめて気合を十二分に溜め込んで挑むアニバーサリーなので、全員参加でよろしくお願いします。